Kaggle GrandmasterのCSOが挑むー圧倒的技術力をビジネスへ
今村安伸さんは、個人事業主から株式会社THIRDへCSO(チーフサイエンティフィックオフィサー)として参画。AI・研究開発の最高責任者の立場から、秀でた技術力を確立します。そんな今村さんは、高専時代より今に至るまで挑戦し続けている活動がありました。それはプログラミングコンテスト。現場のメンバーとともに切磋琢磨しながら、国際的コンペ「Kaggle」において日本で30名前後しかいないといわれている「Kaggle Grandmaster」の称号を得ました。なぜ今もなおコンテストに挑み続けるのか、THIRDが挑む建設現場への課題解決に”技術力”から支える姿に迫りました。
コンテストはどう活きるのか?ー自分自身へのたゆみない挑戦がビジネスへ
今村さんのキャリアの遍歴を教えてください。
幼少期からPCが身近にあり、小学生ですでに「将来はプログラマーになりたい」と夢見ながら触っていました。フロントエンドや自作言語など、エンジニアとしてできないことをひたすら潰していった結果、残った分野がAI。これが、奇遇にも今の仕事に繋がっています。高専へ進学後は、高専プロコンや「ICPC」という国際大学対抗プログラミングコンテストに出場し、実力を試すようになりました。
大学時代も、ICPCでコーチに就任したり、別のICFPプログラミングコンテストへ出場したり、素数チェッカーのコンテストで1位を獲得したり、コンテスト続き。ある時、高専プロコンでプログラムを作って戦わせる場面で、皆がクオリティアップに集中できる環境がなく、本番でもコーディングしかできていない現場を目の当たりにします。そこで、本番に近い環境として交流の場にもなる競技練習場をネット上に作ってみた所、コンテストトップ2チームがこの練習場出身者で総なめになったことがありました。自身の数々のプロコン経験から生まれたアウトプットであり、成功体験として自信に繋がりました。
東京で就職していましたが、しばらくして福岡の実家に戻り個人事業へ転身。仕事の傍ら、プログラミングコンテストへ久しぶりに出場してみると、1位が続きました。その後もプログラミングコンテストの解説者を務めたり、世界中の方が参加するコンペティションティションプラットフォーム「Kaggle」のコンテストへ出場したり、はたまた一年に一度開催される「トップコーダーオープン」という大規模な国際大会へ、先方の旅費負担で、出場する機会を3度もいただきました。そういった経緯から「自分はこの道が向いているのかもしれない」と思うように。最終的には、より高みを目指すため、仕事を掛け持ちしながら大学院へ再入学し、博士号をとりました。
今もなお、社内のメンバーと一緒にコンテストへ出場されていると伺いましたが?
はい。私自身、「Kaggle」の最高位である「Kaggle Grandmaster」になりました。これには、チーム・個人合わせてGold Medalを5つ獲る必要があるのですが、最後の1つを社内チームメンバーで獲ることが出来たことは本当に嬉しかった経験です。入社時「Kaggle Master」は自分以外にいなかったのですが、ともにコンテストへ挑戦する中で、今では2名が加わりました。最後のGold Medalを持ち帰ってくれた際、この2名の功績がとても大きく、私がいなくてもワークするチームを構築出来たのだと実感でき、感謝とやり甲斐に溢れました。
「Kaggle Master」以外にも、競技プログラミングサイト「AtCoder(アットコーダー)」への参加経験や入賞成績を持つメンバーが在籍しています。AtCoderで戦績を残している方は、大抵スキルセットは揃っているため、私も採用時にスキルの参考として参照する事が多いです。実際にレッドコーダーの経験者が社員3名、インターンに1名います。そういったメンバーであれば、後は勝ち方をレクチャーするだけでKaggleでGoldを獲ることも夢ではないと思います。
仕事をこなしながらコンテストに出場することは、とてもハードな挑戦であるかと想像します。どのような思いを持って取り組んでいらっしゃるのでしょうか?
「コンテストで活躍すること」と「ビジネスで活躍すること」は全く異なることだと思っていましたが、今は強い関係性を感じています。何故なら、ビジネスで競争は不可欠で、特に我々のようなスタートアップ企業では、他社、大企業ですらも圧倒的に突き放して優位に立たねば勝ち目はなく、この優位性の確立は、コンテストで鍛えることができるからです。プログラミングコンテストでは、推論の積み重ねが求められます。それには調査と試行を繰り返し、ときには大転換も辞さずブラッシュアップしていくーこれは研究開発にも深い繋がりがあります。
自分自身の能力をはじめ、完成させた研究開発製品の高過ぎる評価を、初めは信じることが出来ませんでした。ですが、「有名なコンテストで優勝する」などという客観的な勝利の指標を積み重ねることや、プロダクトの導入棟数の伸びの実績値などを目の当たりにしたときに、シャーロック・ホームズの言葉の「不可能なものを除外し、残ったものがたとえどんなものであったとしても、それが真相」というのを重く受け止め、嘘偽りのない真実だと思えるようになりました。
AI・研究開発の最高責任者:CSOとしてーTHIRDのサービスを技術力で支えるために
なぜTHIRDへ入社されたのですか?
個人事業主時代にAIのプロダクトを納品した所、気に入ってもらいお誘いいただきました。過去にも何度かCTOのポジションに誘われることはあったのですが、THIRDでは「CSO(チーフサイエンティフィックオフィサー)」を打診されました。つまり、THIRDではCTOとして別人材がおり、自分をCSOとして研究開発分野に注力させ、技術人材を手厚く展開しようとしている部分を魅力に感じました。なお、「CSO」は日本では耳馴染みがないですが、海外では珍しくなく、CTOに比べて科学的背景を持ち研究開発にフォーカスするポジションであると言われています。また、子供の頃から父の仕事の関係で建設・建築分野を親身に感じており、事業を通じて経済成長的な豊かさに貢献できる所にも惹かれていました。
現場ではどのような仕事をされていますか?
確定したものを作る“製品”開発に対して、”研究”開発では、0ベースから作ることが基本です。難しいことですが何も作れないということはなく、要件側の折衷案も含めて検討することで、必ず何某か元の意図に沿った意味のあるものに落とし込むことが出来ます。そういったことを、技術的なクオリティを含めて担保することが、AI・研究開発の最高責任者「CSO」である私の1番の役割です。メンバーには、大学院時代に教授からマンツーマンで細かいアドバイスを受けられた体験をもとに、全員にほぼ毎週1on1をしてフォローアップしています。大人数の会議を頻繁に開催するよりも、マネージャーが個別育成に時間をかけた方が効率的だと思っていますし、会社が売上面でも人材面でも急成長している今、組織をさらに大きくするために必要なことだと思ってトライしています。
THIRDはどのような課題を解決する技術を提供しているのでしょうか?また今後実現していきたいことを是非教えてください。
当社が提供する、AIを搭載したSaaS型ソフトウェア「管理ロイド」では、アプリから点検・検針等の報告をすることで、報告書作成業務が丸ごとなくなります。このサービスを支える”技術力”として、社外から高い評価をいただいているのが「管理メーターの解析」です。ビルのメンテナンスをする上で設置されたメーターを、スマホのカメラでサッと撮るだけで、指している数値をAIが記録します。他社のソリューションでは、針の目盛り数値の初期設定やカメラの設置場所など、メーターごとに細かく合わせる必要があると聞きますが、当社ではメータータイプ程度の簡易的な初期設定のみである程度アバウトな角度での撮影で記録が完了します。「制約が少ない上に精度が優れている」という点に、特にお客様から評価をいただいています。
前半でお話しした、コンテストで上位に常連するメンバーは「成果を出すためにどうしたら良いのかを、自分自身で考え結果まで持ち込むことができる」ような高い自走力があり、そんなメンバーが支える技術力が、THIRDの基盤でもあると思います。今後、管理ロイドの製品クオリティを上げながら、第二の矢として新規開発も着々と進めている所です。